エンジニア転職のメディアは、すでに飽和している。
「エンジニア 転職」と検索すれば、検索結果の1ページ目はほぼ大手人材会社の自社メディアで埋まっている。レバテック、マイナビIT、doda、Geekly、Forkwell。どれも質が高く、情報量も多い。
その中に、私がもう一つメディアを立ち上げる意味はあるのか。
半年ほど考えて、答えは「ある」だと結論した。
このメディアが他と違う一点
世の中のエンジニア転職メディアには、構造的に書けないことがある。
それは、採用する側の本音だ。
人材会社のメディアは、求職者を求人に送客することで収益を得ている。だから、自社で扱う案件を否定する記事は書けない。「この媒体で30代未経験は厳しい」と書いてしまったら、自社のサービス利用者を減らすことになる。だから書かない。書けないというより、書く合理性がない。
これは批判ではなく、構造の話だ。彼らはビジネスを正しくやっている。
一方で、個人ブログやインフルエンサーは、自分が採用判断をしている人が少ない。「エンジニアとして転職した側」の経験は語れても、「エンジニアを採る側」の経験を持っている人はそう多くない。なんなら自身がエンジニアでもなのに、ただただエンジニアになれと煽っているだけのインフルエンサーも少なくない。
私の立ち位置
詳しい経歴は伏せておく。社名や肩書きを出して書くと、それ自体がポジショントークになってしまうし、「あの会社の人が言っている」というバイアスで読まれてしまうのも嫌だからだ。
その上で、最低限の立場だけ明かしておく。
私は経営者であり、現役のWebエンジニアでもある。自分の会社を経営しながら、自分でコードを書き、自分でエンジニアを採用してきた。
経営者としての立場では、毎月の人件費と売上のバランスを見ながら、誰を採るか、誰に何を任せるか、どの技術に投資するかを判断している。エンジニア一人を採用することの重さを、給与の額ではなく事業のキャッシュフローの観点から考えてきた。採用で失敗したときの損失も、自分の事業の数字として引き受けてきた。
エンジニアとしての立場では、技術選定、設計、コードレビュー、生成AIを使った開発の最前線を、毎日自分の手で動かしている。
この三つの立場、つまり経営者として事業の責任を持ちながら、採用判断を自分で下し、現場のエンジニアでもあるという組み合わせは、市場にあまりいない。それが、このメディアを書く資格だと思っている。
このメディアが書くこと
一言で言えば、AI時代のキャリア論を、AI開発の最前線から書く。
生成AIの爆発的な普及で、もはや今までとは同じような仕事をしていても生き残れないというのはまともなエンジニアであればわかるはずだ。
もう一つ、このメディアが他と違う点がある。
それは、AI開発を実際にやっている人間が書いているということだ。
私は、生成AIを使ったコーディングを毎日のように業務で行っている。ペアプログラミングの相手はAIで、設計の壁打ちもAIとやる。一人で書いていた頃と比べて、書けるコードの量も、検証できる仮説の数も、文字通り桁が変わった。
これは、転職市場における自分のポジションをこれから考える人にとって、無視できない情報だと思う。
「AIに仕事を奪われるエンジニア」と「AIで仕事を増やすエンジニア」の差は、抽象的な話ではない。具体的にどのツールをどう使っているか、どのタスクをAIに任せているか、どこは人間が判断しなければならないか。その解像度の差が、5年後のキャリアを分ける。
私はその解像度を、現場で毎日アップデートしている人間として書ける。
これも、人材会社のメディアでは書けないし、AI開発をしていないキャリアアドバイザーにも書けない。
このメディアが書かないこと
このメディアでは、いくつかのことを意図的に書かない。
「未経験から3ヶ月でエンジニアになれる」みたいな話は書かない。私は採る側として、3ヶ月の学習で来た人を採用しない。だからメディアでも勧めない。これは私個人の正直な判断であって、すべての企業がそうだとは言わない。だが、私の経験と判断を曲げて読者に媚びるのは、このメディアの主旨と真逆になる。
「誰でも稼げる」「簡単に転職できる」みたいな煽り表現も書かない。エンジニアのキャリア設計は、簡単ではない。簡単に見せかけることは、読者を裏切ることになる。
私が自分で使ったことがない、または採用で関わったことがない求人媒体の紹介も、原則として書かない。書く場合は「使ったことがない」と明記する。
最後に
このメディアで発信する内容にはおおいに私自身の経験に基づくバイアスが強くかかっている。スタートアップ寄りの環境にいるから、大企業の採用基準には鈍いかもしれない。新卒採用をしたことがないので、それもわからない。AIに前向きな立場だから、AIに懐疑的なエンジニアの視点は弱いかもしれない。
それでも、立場を明示した上で書く価値はあると思っている。匿名のライターが書いた当たり障りのない記事より、経験のある人間が書いた偏った記事のほうが、AIには書くことができないものであり、読者の判断材料として有用だと信じている。