転職活動中のエンジニアに、採る側から直接伝えたいことがある。
私はプロダクト開発の意思決定をしながら、エンジニアの採用面談を自分で担っている。人事部門や採用代行を介さず、実際に一緒に働く人間が直接話を聞き、その場で判断する。数百人の面談を重ねてきた中で、ある共通パターンが見えてきた。
「それでは最初に、簡単に自己紹介をお願いできますか」
この問いに対して、職務経歴書をそのまま読み上げる人が、想像以上に多い。採用面談の最初の数分で、私の中に「この人と一緒に働くことは難しいかもしれない」という感覚が生まれる瞬間だ。
これは自己PRのテクニックの話ではない。採る側が何を聞きたいかを理解しているかどうかの話だ。転職活動の準備を進めているなら、面接の練習より先に読んでほしい。
なぜ職務経歴書の読み上げが問題なのか
自己紹介を求めたとき、私はすでにその人の職務経歴書を読んでいる。2〜3回読んでいるときもある。
「〇〇社に入社し、バックエンドエンジニアとして3年間、主にECプラットフォームの開発を担当しました。その後、△△社に転職し、技術リードとして5人のチームをマネジメントしながら決済システムのリプレイスを主導しました」
これはすべて職務経歴書に書いてある事実だ。私が聞きたいのは、事実の確認ではない。
私が聞きたいのは、その経験の中でその人が「何を感じ、何を考え、何を学んだか」だ。
決済システムのリプレイスで、一番難しかった判断は何だったのか。JavaからGoに移行したとき、その選択の根拠は何だったのか。5人のチームをマネジメントする中で、うまくいかなかった場面でどう動いたのか。
事実は職務経歴書に書いてある。面談の場では、その事実の「奥にあるもの」を聞いている。読み上げだけで終わる人は、その問いに気づいていない。
採用面談でこの読み上げが評価を下げる理由はもう一つある。入社後の仕事を想像したとき、報告・相談・設計議論のたびに「事実の列挙」しか返ってこない可能性を、採る側は無意識に計算しているからだ。
「誠実さ」の問題
もう一つ、採用面談で私が一発で判断を固める瞬間がある。
あるとき、自己紹介で「技術リードとして開発環境の刷新を主導しました」と話してくれた候補者がいた。詳しく聞こうと思い、「どんな技術判断をされたんですか?」と問いかけた。
返ってきた答えはこうだった。「技術選定は上位の役員が決めていました。私はそれを実行する立場で」。
事実として、その仕事をしていたのは本当のことだろう。しかし、「主導した」という表現と、「役員が決めた」という内容は、明らかにずれている。
これは誇張の問題以上に、誠実さの問題だ。
採用面談では、候補者が自分の経験をどう語るかで、入社後にどう動くかが見えてくる。「自分が主導した」と語りながら、実態は「言われたことをやっていた」という構造が見えたとき、私はその人と一緒に仕事をする場面を想像できなくなる。
語る責任範囲と実際の責任範囲を正確に一致させられるかどうかは、入社後の設計議論や技術選定の場面でも直結する。自分が持っていない知識や決定権を持っているように語る人に、重要な判断を任せることはできない。
誠実さは、技術力と同じくらい採用判断に影響する。それも、面談の最初の数分で、採る側には見える。
自己紹介で語るべきこと
では、採用面談の自己紹介で何を語ればいいのか。
答えは一つだ。「事実」ではなく「判断と感情」を語ること。
職務経歴書に書いてある事実を一行で触れたあと、その経験の中で自分が何を感じ、どんな判断をし、何を得たかを話す。長くなる必要はない。3〜5分で「その人の仕事の仕方」が見えてくる自己紹介を目指す。
具体的にはこういう構造だ。
「〇〇社でバックエンドを3年担当していました。特に印象に残っているのは2年目に任された決済システムの改修で、最初は既存コードの複雑さに圧倒されてしまい、1ヶ月ほど手が止まる時期がありました。そこで設計書を一から起こすという方針を自分で決めて、進めることができました。このとき初めて、ドキュメントを先に作ることの価値を実感しました」
事実・感情・判断・学びという4つが含まれているだけで、自己紹介の質は別次元になる。
また、担当範囲と自分の決定権の範囲は、正確に区別して話すこと。「チームとして取り組んだ」「自分が判断した」「上位の決定に従って動いた」の3つを文脈に応じて使い分けられる人は、採る側から見て信頼できる。
AI時代に「語れること」の価値が上がっている理由
もう一点、今の転職市場で特に伝えておきたいことがある。
AI開発支援ツールの普及で、コードを書くこと自体のハードルは圧倒的に下がっている。Cursor や GitHub Copilot を使えば、以前なら数日かかっていた実装が数時間、なんならものの10分で形になる場面が増えた。「何を作ったか」「どんな技術を使ったか」だけでは、候補者の差別化にならなくなってきている。
この変化の中で相対的に価値が上がっているのは、「なぜそうしたか」「どんな判断でそこに至ったか」を語れる能力だ。
ツールは同じものを誰でも使える。しかし、そのツールをいつ使い、いつ使わず、どんな基準で切り分けるかという判断は、経験と思考の蓄積があって初めて語れる。
面談の自己紹介で「AIツールを活用していました」で終わる人と、「AIに任せる部分と自分で設計する部分をこういう基準で分けていました。たとえばこのシステムでは……」と語れる人とでは、採用判断に大きな差が出る。技術的な話も、判断の言語化があってはじめて評価につながる。
採る側と採られる側が共有すべき認識
採用面談の自己紹介は、職務経歴書の音読の場ではない。
採る側は、候補者がどんな経験をしてきたかを確認したいのではなく、その経験の中でどんな思考をしてきたかを見ている。何を感じ、何を判断し、何を学んだのか。その人が入社後に、チームの中でどう動くのかを、この数分から予測している。
採られる側にとっては、自己紹介の質を上げることは、面接テクニックを磨くことではない。日々の仕事の中で「自分が何を感じ、なぜそう判断したか」を言語化する習慣をつけることが、結果として面談での自己紹介につながる。
誠実さについても同様だ。自分が持っている経験と持っていない経験を、正確に語り分ける習慣は、入社後の仕事そのものの質に直結する。面談だけで変えようとしても難しい。日常の仕事でその習慣を積み重ねることが、根本的な解決になる。
採用面談で「この人は難しい」と判断される瞬間の多くは、技術力の問題ではない。採る側が何を聞いているのかを理解していないことから来ている。
よくある質問
Q. 自己紹介は何分くらいが適切ですか?
3〜5分が目安だ。短すぎると事実の列挙で終わる。長すぎると要点が見えなくなる。「事実1〜2行 + 印象に残っている経験の具体話 + そこから得た視点」の構造で話すと、この時間に収まりやすい。
Q. チームで取り組んだプロジェクトを自己紹介で話すとき、どこまで「自分がやった」と言ってよいですか?
自分が担当した範囲と判断した範囲を、正確に分けて話すことが前提だ。「チームで取り組んだ中で、私はこの部分を担当し、この判断を自分でした」という語り方が正しい。チーム全体の成果を自分の成果のように語ることは、採る側に必ずバレる。
Q. これまでの経験が地味で、語れることが少ないと感じています。
地味な経験でも、そこで「何を感じ、何を判断し、何を学んだか」を語れれば、派手な経歴より評価が上がることがある。「レガシーコードの改修を1年担当した」という事実が、「なぜ誰もやりたがらなかったのに引き受けたか、どんな壁があり、どう突破したか」まで語れると、採る側からは別の話に見える。
Q. 職務経歴書に書いてある以上のことを話すと、「盛っている」と思われませんか?
事実の範囲を超えるのではなく、事実の奥にある感情・判断・学びを語ることは、盛ることではない。「この技術を使いました」→「この理由でこの技術を選び、この点で苦労し、次回はこうしたい」は、同じ事実をより深く語っているだけだ。事実と感想と判断を混同しないことだけ意識すれば問題ない。
Q. リモート面談と対面面談で、自己紹介の準備は変わりますか?
本質は変わらない。ただしリモートでは非言語の情報量が減るため、言語化の精度が評価に直結しやすい。リモート面談が多い現在、「話す内容の質」がより重要になっている。

