AIが分析してくれる時代に、採用側が「決められる人」を求める理由

面接

採用面談で「言われたことを正確にこなせます」と語るエンジニアに、私は以前ほど魅力を感じなくなった。

理由はシンプルだ。その仕事の多くを、今やAIがこなせてしまうから。

情報を集める。分析する。仮説を立てる。このサイクルにかかる時間は、AIが介在することで劇的に短縮された。副作用として、「情報処理能力の高さ」という競争軸が、人間同士では差をつけにくくなった。

その代わりに浮かび上がったのが、「決める力」だ。

採用市場において、曖昧な状況で不完全な情報のもと自分で判断できる人の価値が、静かに、しかし確実に上がっている。この記事では、採る側として面談でどう見極めているか、そして転職中のエンジニアが今何を準備すべきかを書く。

採る側の視点:面談で「決められる人」を見極める方法

情報処理能力が差別化軸でなくなった

数年前まで、採用で「仕事ができる人」を測る軸の一つは、情報収集と分析の速さだった。大量のデータを読み込み、パターンを見つけ、仮説を立てる。この能力が高い人は、組織のボトルネックを解消する力として価値を持っていた。

しかし、Claude CodeやCursorのようなAI開発支援ツールが当たり前になった今、状況が変わったことは誰の目にも明らかだろう。

私が関わる開発現場でも、スプリントの計画を立てる前にAIでバックログの優先度を分析したり、ユーザーフィードバックのパターンをAIで整理したりすることが日常になっている。これまで優秀な人材が担っていた「情報を整理して判断の材料にする」工程が、大幅に自動化されている。

これが意味するのは、情報処理能力の格差が縮まったということだ。誰でもAIで分析できる状況では、「自分の方が分析が速い」という強みは薄れていく。

採用基準はどこへ向かうか

このことが採用基準を変えている。

私が今、面談でよく聞く質問がある。「最近の業務で、自分の判断で動いたことはありますか?」

回答に二つのパターンが出てくる。

一つ目は、「上司に確認してから動きました」「チームで合意を取りました」という回答だ。これ自体は悪いことではない。しかし、これしか出てこない場合は警戒する。自分の責任範囲で踏ん張って決めた経験が見えてこないからだ。

二つ目は、「状況が変わったと判断して、指示を待たずに方針を変えました。結果、こういうことが起きて、こう修正しました」という回答だ。成功でなくてもいい。このパターンが出てくる人は、決めることと、その結果を引き受けることをセットで考えている。

「決められない人」がチームに与えるコスト

あるエンジニアを採用したことがある。技術力は高かった。コードの品質も良かった。しかし、仕様の曖昧な部分に直面するたびに意思決定が止まった。上を向くか、待つか、どちらも選ばずに手の動きが止まる。しかも相談ができずに悶々と考えて時間だけが過ぎて行く。

チームの他のメンバーが動けなくなる時間が積み重なった。表面的なコードの品質より、その判断の停滞の方が、事業スピードに影響した。

採用で失敗したと感じた。技術力を測るより、「曖昧な状況でどう動くか」を聞き出せなかった私の面談設計の問題でもあった。

この経験から、私の面談には必ず「不確実な状況での過去の判断」を聞く時間を設けるようになった。

「決められない人」がチームに与えるコストは、採用時の技術力評価では見えてこない。

エンジニア一人が業務でつまずくたびに、周囲が拾いに行く時間が発生する。そのコストは給与以上のキャッシュフローへの影響になる。採用判断とは、その人が入ることでチームの速度がどう変わるかを予測する行為だ。

「決める経験」をどう面談で語るか

「言われた通りにやれる人」のアピールは通じにくい

転職活動中のエンジニアが面談で話すことの多くは、「これができます」「あれをやってきました」という実績の列挙だ。

それはもちろん伝えることは必要だ。しかし、それだけでは今の採用市場で頭一つ抜けにくい。

理由は先に述べた通りで、「何ができるか」という能力軸では差がつきにくくなっているからだ。AIを使えば補える能力の範囲が広がったことで、スキルシートで映える経験の相対的な価値が落ちている。

では何が刺さるか。「この人は自分で決めて動ける人だ」という印象だ。

面談で語るべき3つのエピソード

準備すべきエピソードは、次の3種類だ。

1. 不確実な状況で自分の判断で動いた経験

要件が曖昧だった、技術的な選択肢が複数あった、スケジュールが変わった。そういう状況で、どう判断したか。「判断の理由」と「判断後に何が起きたか」を具体的に語れるかどうかが重要だ。「上司に確認しました」で終わる話は、ここでは弱い。

間違ってもグチを言ってはいけない。もちろん人間なのでそりゃあグチが出ることはあるだろう。しかし面談でそれを伝えるべきではない。

2. リスクを取って進めた経験

失敗してもいい。むしろ、失敗した話の方が面白いことが多い。「こうなる可能性があると分かっていたが、こう判断して進めた。結果はこうなった」という話は、その人がどこまで自分で責任を取れるかを示す。

3. 自分の判断が間違っていたと分かったとき、どう動いたか

この3つ目が特に重要だと思っている。判断を間違えたとき、どう修正したかは、意思決定の質とセットで語られる。失敗を他責にしているか、自責で修正したかが見える。

AI時代の転職活動での姿勢

転職活動そのものについても言いたいことがある。

エージェントに「どっちの会社がいいですか」と聞いている人に時々会う。エージェントは情報は持っている。しかし、あなたのキャリアの判断をエージェントに委ねることは、仕事での判断を他者に委ねることと同じ構造だ。

Cursorで自分の職務経歴書を添削してもらうのはいい。AIでスカウトメールを分析するのもいい。しかし、「この会社に入る」という判断は、AIにもエージェントにも委ねられない。自分で決めるしかないのだ。

転職活動そのものが、「自分で判断できる人かどうか」を試す場になっている。

今日から変えられること

採る側が求めているのは、完璧な意思決定者ではない。「自分の責任範囲で踏ん張って決められる人」だ。

これはスキルではなく習慣の問題でもある。面談の場で突然「決められる人」に見せようとするのは難しい。それよりも、日常の業務で意思決定の経験を積み、それを言語化する練習を重ねておく方が、ずっと実質的だ。

採る側の立場から言えば、今日から取れる行動は一つだ。面談設計を変えること。技術の深さを測る質問の前に、「曖昧な状況でどう動いたか」を聞く時間を設ける。これだけで、候補者の解像度が大きく上がる。

採られる側の立場から言えば、直近1年で「自分が決めた」エピソードを5つ書き出してみてほしい。書けないなら、それが問題の所在だ。書けるなら、その5つを面談で語れる形に磨くことが、今すべき準備だ。

「判断力」に対する誤解を一つ否定しておく

「判断力が重要」と言うと、「独断専行できる人を求めているのか」という誤解が出ることがあるがそれは違う。

チームで議論して合意を取ることも、上司に相談することも、場面によっては最善の意思決定だ。求めているのは独裁者ではない。

求めているのは、「相談するかしないか」を自分で判断できる人だ。判断の内容より、判断の主体性の話をしている。

「確認した方がいいと判断したから確認した」という人と、「確認しないと動けなかったから確認した」という人は、面談の中でも明確に違いが出る。

FAQ

Q. 「決められる人」を面談で見極める具体的な質問は?

「最近の業務で、指示を受けずに自分で判断して動いた経験を教えてください」が一番シンプルで使いやすい。答えに詰まる場合は、「逆に、判断を保留した経験でも構いません」と言い換えると、その人の判断パターンが見えやすい。

Q. 若手エンジニアでも「決める経験」は問われますか?

年次が低ければ範囲は小さくていい。「コードレビューのコメントへの対応方針を自分で決めた」でも構わない。範囲の大小より、「自分が判断の主体だった」という経験があるかどうかを見ている。

Q. AIを使いこなしているアピールより、判断力のアピールの方が重要ですか?

どちらか一方ではなく、両方必要だが、接続の仕方が重要だ。「Cursorを使っています」ではなく「Cursorで実装のたたきを出して、設計判断は自分で行っています」という語り方が評価される。ツールを使うことと、判断することを分けて語れる人が強い。

Q. スタートアップ以外の企業でも同じ基準ですか?

規模の大きな企業や規制産業では、判断の権限が階層的に分散していることが多い。「決める」というより「エスカレーションの設計ができるか」が問われる場合もある。面談の相手がどういう意思決定文化の会社かを事前に確認することが重要だ。

Q. 「決めた経験がない」場合はどうすればいいですか?

転職活動が始まった今から作ることはできる。個人開発で何か小さなものを作り、ユーザーに使ってもらう。仕様変更の判断を自分でする。リリースタイミングを自分で決める。この1〜2ヶ月の経験でも、言語化できれば面談で使える素材になる。とにかく手を動かせ。話しはそれからだ。

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