サイゼリヤ非公式クライアントを作った高校生のような人がもし面接にきたら採用側はどう評価するか

面接

私はエンジニアリングチームの採用を、採用代行を介さず現場で直接判断している。書類選考から最終面談まで自分で行い、これまで数十名の採用可否を決めてきた。

2026年5月、ある高校生がサイゼリヤの注文システムをリバースエンジニアリングし、AIエージェントと連携した非公式クライアントをGitHubに公開した。その後、技術的・倫理的な観点から議論が広がり、X上でさまざまな意見が飛び交った。

「倫理的にどうか」「法的にどうか」という議論はすでに他のメディアが書き尽くしている。ここでは扱わない。私が書くのは一点だけだ。採用側として、この人材を採るか採らないか。

転職活動中のエンジニアには、ぜひ面接対策より前にこの記事を読んでほしい。採用側が技術力の次に何を見ているか、この事案を通じて理解できるはずだ。

まず免責事項だが、これはあくまで私の一個人の意見であり、当の本人やそれに類する人からしたら「そんな会社こっちから願い下げだわ」「そもそも頼んでいないわ」と思うだろうが、あくまでも採用する側人間としてこの事象を通してどのようなことを思ったのかを取り上げるだけということで見てほしい。

事案の概要

サイゼリヤの注文システムはAPIとして公開されていない。この高校生はそのシステムの通信を解析し、内部仕様を把握した上で非公式クライアントを実装した。さらにAIエージェントとの連携機能を実装し、GitHubで公開した。

その後、問題が指摘された。

本人の発信の中に「利用規約で禁止されていない」という旨の言葉があったとされる。この一文が、採用側として最も注目する部分になった。後述する。

そもそも利用規約があったとしても同意していないという法的な論点もあるが、ここでは取り扱わない。

技術スタックの詳細は確認できていない部分もある。ただ、通信解析・リバースエンジニアリング・AIエージェント連携を組み合わせた実装を、高校2年生が一人でやり切ったことは事実として受け止めている。

技術力の評価

率直に言う。技術力は本物だろう。

リバースエンジニアリングは一般的な開発者教育の中では学ばないスキルだ。通信の構造を読み解き、意図した挙動を実装するためには、プロトコルへの理解と粘り強いデバッグ能力が必要になる。それをAIエージェントと連携するシステムに仕上げた点も評価できる。

高校2年でここまでできる人間は、採用市場でほとんど存在しない。技術的なポテンシャルだけを見るなら、即戦力候補として真剣に検討するレベルだ。

ここを曖昧にしてから話を進めるつもりはない。技術力が高いことを認めた上で、なぜ採らないかを書く。

(と書いたものの、CodexやClaudeCodeを使えば正直誰でもできるんだろうが、、、という本音もある。)

採用側が本当に見ているもの

採用面談で私が見るのは、技術力そのものではない。判断の質だ。

何かを実装しようとしたとき、何を考慮してそれをやると決めたか、あるいはやらないと決めたか。その思考のプロセスが、採用可否を分ける。

「利用規約で禁止されていない」という言葉に戻る。

これは法的・契約的な観点からの判断基準だ。禁止事項に明示されていない行為を「禁止されていない」と解釈することは、論理としては成立する。しかし採用側として聞きたいのはそこではない。

仮に1,000人が同時にこのCLIを店内で動かしたとき、何が起きるか。

非公式クライアントをGitHubに公開するということは、使う人間を制御できなくなるということだ。「自分が使う分には問題ない」という前提で作ったものが、想定外のスケールで使われたとき、サーバーへの負荷はどうなるか。注文処理の整合性はどうなるか。店舗オペレーションにどんな影響が出るか。

こうした考慮が設計の前提に入っていれば、公開の形は変わったはずだ。リポジトリをプライベートにする、限定公開にする、事前に接触して許諾を得る。選択肢はある。それでも公開に踏み切るなら、少なくとも影響範囲についての考察が添えられていてよかった。

本人の発信にはその痕跡がなかったと見える。むしろ便利になるからいいだろう、という趣旨の内容もありこれは先方へのリスペクトに欠けている。それが問題の核心だ。別の事象で言えば、お店の宣伝になるから勝手に店内の写真をSNSをあげたり、アニメの宣伝になるからとアニメのイラストを勝手に使っているようなものだ。

要は相手にメリットがあると思えば(実際にあるかどうかは別として)、好意でやっていいだろう、という判断である。

採用側が本番環境のアクセス権を渡せない理由

私のチームには、本番環境のデータベースにアクセスできるエンジニアが複数いる。そのアクセス権を渡す基準は一つだ。「できること」と「やるべきこと」を自分で判断できる人間かどうか、だ。

「利用規約に明示されていなければ問題ない」という思考回路を持つ人間が本番環境に入ったとき、何が起きるか。技術力があればあるほど、影響範囲は大きくなる。

これは「この行動が悪かった」という話ではない。「スケール想定と影響範囲の考慮が、設計の前提に入っていない」という問題だ。技術力がどれだけ高くても、この部分が欠けているエンジニアに本番の責任は持たせられない。

採用面談での確認方法

こうした判断の質は、面談で次の質問をするとわかる。「過去に、実装するかどうか迷った経験はありますか。迷ったとき、何を基準に判断しましたか」という問いだ。

「できるかどうか」ではなく「やるべきかどうか」を自分で問うた経験がある人間かどうか、ここで明確に分かれる。

「採る」派の論理と私の反論

「ルールを壊せる人材こそスタートアップには必要だ」という意見がある。既存の枠組みに縛られず、新しいことを試し続ける姿勢は、スタートアップの現場で確かに価値を持つ。その意見は理解できる。

ただし、反論は一点だ。

「ルールを壊す」と「境界を無視する」は違う。

私が評価するのは、考慮した上で前進できる人間だ。リスクを把握し、それでもやると判断し、責任を取る覚悟がある人間だ。スタートアップで価値を持つ「ルールを壊せる人材」は、実はこのプロセスを経た上で前進できる人間を指している。

スケール・影響範囲・第三者への影響、これらが設計の前提に入っていれば、公開の形は変わったはずだ。

私の結論

今すぐは採らない。3年後に声をかけたいという気持ち。

様々な人がいて、私はよくXのDMでコンタクトを取りに行くことがあるが今回は私はコンタクトを取らない判断をした。

今すぐ採らない理由はすでに書いた。なぜ3年後なのかを説明する。

この炎上は、彼が受けられる最高の教育だからだ。

技術力があるがゆえに、影響範囲が大きかった。技術力があるがゆえに、炎上した。この経験は、教科書でもメンターでも与えられない種類の学習だ。「自分の技術が他者に与える影響」を、身をもって経験した人間は少ない。

3年後、もし私が彼と接触する機会があればぜひとも聞いてみたい。「あのとき何が足りなかったと思いますか」という質問だ。

「利用規約の確認が甘かった」という答えなら、見送る。「スケールが想定外になったときの影響を考えていなかった」という答えなら、真剣に検討する。「あの経験があったから、今は実装前に影響範囲を必ず確認するようになった」という答えなら、優先的に声をかけたい。

失敗から何を学んだかが、採用の基準になる。

転職活動中のエンジニアへ

この事案を他人事として読まないでほしい。

採用面談で「技術力のある候補者」は年々増えている。LLMを活用した開発が当たり前になり、以前は上級者だけが実装できたものを、今は多くのエンジニアが実装できる。技術力での差別化は難しくなっている。

採用側が今見ているのは、技術力ではなく判断の質だ。

具体的には、過去の仕事の中で「やらないと決めた」経験を語れるかどうかだ。機能追加の依頼を断った経験。技術選定で「使えるが今回は不要」と判断した経験。アクセス権限の範囲で迷って確認を取った経験。これらを自分の言葉で話せるかどうかが、採否を分ける。

面接対策の前に、過去の仕事の中で「何を考慮して、何を選ばなかったか」を5つ書き出してみてほしい。この準備が、技術力と同じかそれ以上に、採用面談で効いてくる。

信頼できる転職エージェントを活用する場合も、まずこの言語化を先にやってほしい。スタートアップや成長期のIT企業への転職を考えているなら、現場のエンジニアマネージャーが何を見ているかを理解した上でサポートしてくれる媒体を選ぶといい。

よくある質問(FAQ)

Q. リバースエンジニアリング自体は違法なのですか?

A. 日本の法律では、リバースエンジニアリングを一律に禁止する規定はない。ただし、利用規約・不正競争防止法・著作権法など複数の観点から問題になる可能性があり、行為の目的・手段・影響範囲によって判断が変わる。この記事では法的な判断は扱っていない。

Q. 高校生だから大目に見るべきでは?

A. 年齢は考慮する。だからこそ「今は採らない、3年後に声をかける」という結論になっている。年齢を理由に評価を甘くするのではなく、年齢を踏まえた上で成長の余地を見ている。

Q. 採用面談で「判断の質」を聞かれたとき、どう答えればいいですか?

A. 「やらないと決めた経験」を具体的に話すことが効果的だ。「〇〇という依頼があったが、△△という理由でやらないと判断した。その結果□□という影響が出た」という構造で話せると、判断のプロセスが伝わりやすい。

Q. スタートアップ以外の企業でも同じ基準ですか?

A. 大企業や規制業界では判断の基準が異なる場合がある。意思決定の権限が分散しており、個人の判断より組織のプロセスが優先される環境では、この記事で書いた評価軸は一部当てはまらないこともある。

Q. 転職活動でエージェントを使う場合、何を基準に選べばいいですか?

A. 「現場の採用担当者が何を見ているか」を理解しているエージェントかどうかが基準になる。面接対策だけでなく、採用可否の判断軸について具体的に話せるエージェントを選ぶといい。

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